「マーケティングを強化したいけれど、正直、何から手をつけていいか分からない」
「自社の本当の課題がどこにあるのか、自分たちでも見えていない」
私たちがプロジェクトをご一緒する際、最初の段階でこうした本音を伺うことは非常に多いです。「こんな漠然とした状態で相談してしまって申し訳ない」と仰る方もいますが、結論から言えば、その状態でご相談いただくことは全く問題ありません。むしろ、それこそがマーケティングを機能させるための正しいスタート地点だと考えています。
今回は、「何から始めればいいか分からない」という不確実な状態に対して、私たちがどのように向き合い、プロジェクトの第一歩を踏み出すのかをお話しします。
目次
「手段(施策)」から決めることの危うさ
「何から手をつけていいか分からない」という状態のとき、現場では焦りから「まずはInstagram広告をやってみよう」「とりあえずLPを作ろう」と、目に見える「手段(施策)」から決めてしまおうとする力が働きます。
外部のパートナーに依頼する際も、「今回はどんな施策をご希望ですか?」と聞かれ、そのまま手段の実行フェーズに入ってしまうケースは少なくありません。
しかし、これまでの連載でお伝えしてきた通り、事前の「思考の構造(目的や戦略)」がズレたまま施策だけを走らせても、事業全体の成果には決して結びつきません。 「課題の特定」という一番上流の工程を飛ばし、手段だけを当てはめようとすること。これが、マーケティングが機能不全に陥る最大の原因です。
最初の打ち合わせで必ず問う「2つのこと」
だからこそ、私たちが最初の打ち合わせで「どの施策をやりたいか」を最初にお聞きすることはありません。 すべての土台となる思考プロセス「DSO(Design / Strategy / Operation)」の最も上流である「Design(設計)」フェーズを組み立てるために、必ず問う2つのことがあります。
1. 「そもそも、なぜこの事業をやっているのか?(目的と価値の源泉)」
一つ目は、事業の存在意義と、「こうありたい」という思いです。 「この商品は、どんな背景で生まれたのか」「誰の、どんな悩みを解決して喜ばれたいのか」。 うまく言語化されていなくても構いません。頭の中にある熱量や哲学をヒアリングします。
マーケティングとは「価値循環の設計」であり、その循環の起点となる「価値の純度」がどこにあるのかを特定しなければ、誰に何を伝えていいかが決まらないからです。
2. 「今、数字として表れている事実は何か?(ファクトの確認)」
二つ目は、主観を交えない客観的な「事実」です。 「アクセス数はどのくらいか」「離脱率が高いのはどのページか」「リピートしている顧客の共通点は何か」。「売れていない気がする」という感覚をそのまま受け取るのではなく、データという事実に基づいて事業を構造化し、「どこで価値の循環が詰まっているか」を解体していきます。
言葉にならない「思いを預かる」
「何から始めればいいか分からない」というのは、知識や能力の不足ではありません。日々の業務に追われ、情報が複雑に絡み合って「構造が見えなくなっている」だけです。
私たちの行動指針(KH CODE)には、「思いを預かる」という言葉があります。 うまく言語化できない違和感や「本当はこうなりたい」という強い願望を、単なる要望やタスクとして処理するのではなく、自分ごととして引き受け、事業の構造へと翻訳し直すこと。 課題解決を急ぐ前に、まずはその「願望の代弁者」になることを何よりも大切にしています。
だからこそ、「分からない」という状態のままで構いません。絡み合った糸を解きほぐし、「本当に解くべき本質的な課題は何か」を事実と思想から定義し直すこと。それが、事業の非連続な成長をつくるための確実な第一歩となります。
まとめ
「とりあえず何か施策をやらなきゃ」と焦る前に、まずは現状の複雑な情報のまま、立ち止まって対話を重ねてみてください。 施策のリストを埋めるためではなく、事業の奥底にある価値を深く理解し、構造化するための対話こそが、マーケティングを動かす最大の鍵となります。
次回は、この「最初の打ち合わせ」を経て、見つけ出した課題や戦略をどのように言葉にし、チームを動かしていくのか。組織の推進力を生む「言語化の力」についてお話しします。