前回は、私たちが最初の打ち合わせで「やりたい施策」から聞かず、「目的」と「事実」を深く問う理由についてお話ししました。今回はそこから一歩踏み込み、外部のパートナーとプロジェクトを進める際、何を「提供価値」として据えるべきかについてお話しします。
マーケティングのプロジェクトが動くとき、「新しいLPを作ってほしい」「広告運用をお願いしたい」と、具体的な作業を発注するケースは多いと思います。
しかし、ここでお伝えしたい事実があります。プロジェクトのゴールを「言われた通りに作業をこなすこと」に置いてしまうと、マーケティングは高い確率で機能不全に陥ります。
「言われた通りに作る」がもたらす限界
クライアントの指示通りにLPを作り、決められた予算で広告を回す。「指示通りに仕上がりました」と言えれば、一見するとプロジェクトはスムーズに進んでいるように見えます。
しかし、そこに「顧客への深い理解」が欠けていたらどうなるでしょうか。 どれだけ美しいデザインに仕上げても、最新の広告ツールを駆使しても、商品は売れない。それは、企業が伝えたい魅力が、顧客の心に全く刺さっていないからです。 ただ作業を形にするだけの関係性では、事業の成長を非連続に増幅させることはできません。
マーケティングの中核は「翻訳」にある
私たちは、マーケティングを単なる「売る技術」や「作業の集積」とは考えていません。 マーケティングの本質は、「価値を社会に流通させ、循環させる構造の設計」です。そして、私たちが定義する価値循環(価値→翻訳→接続→流通→循環)のプロセスにおいて重要視しているのが「翻訳」という技術です。
企業は、「この商品はこんなに素材が良い」「こんな便利な機能がある」という熱い思いを持っています。しかし、その「売り手の言葉(機能的価値)」をそのまま投げつけても、顧客には届きません。
一方で顧客も、「毎日の家事をもっと楽にしたい」「絶対に失敗しない家具選びがしたい」という声にならない願望や不安を持っていますが、それをどう叶えればいいのか言語化できていません。
この「売り手の機能的価値」と「買い手の本質的願望」の間に立ち、双方が深く理解し合える言葉や形(ブランド、コンセプト、メッセージ、空間設計など)に変換すること。それこそが、マーケティングにおける「翻訳」の役割です。
「思いを預かる」という翻訳のプロセス
私たちの組織の行動指針(KH CODE)には、「思いを預かる」という言葉があります。クライアントの「こうありたい」という事業への思い。そして、顧客自身もうまく言葉にできない「こんな生活がしたい」という願望。これらをただの要望として処理するのではなく、事業の構造へと翻訳していくスタンスです。
例えば、「機能が良いから買ってほしい」という商品の価値を、「これがあれば、あなたの休日はもっと豊かになる」という顧客の文脈に翻訳し直す。時には翻訳の精度を上げるために、商品自体の見せ方や販売手法の根本的な変更(単品販売からセット販売への移行など)を設計することもあります。
顧客の「願望の代弁者」として事業に向き合うからこそ、表面的な作業を超えた価値が生まれます。
まとめ
外部のパートナーに求めるべきは、言われた作業を代行する「手」ではなく、企業が持つ本来の価値を社会に正しく循環させるための「翻訳の頭脳」です。
もし今、自社の素晴らしい商品やサービスの価値が顧客に伝わりきっていないと感じるなら、新しい施策に走る前に、まずは顧客の文脈へと「価値が正しく翻訳されているか」を問い直してみてください。
次回は、この「翻訳」を支える具体的なスキル、「言語化」についてお話しします。なぜ私たちが、感覚やノリを許さず、言葉の解像度に徹底的にこだわるのか。その組織文化を紐解きます。