前回は、私たちがプロジェクトにおいて最も大切にしている組織哲学、「1+1=3(非連続な成長)」を生み出す構造についてお話ししました。
互いの視点を交え、本質的な議論を戦わせる協働の重要性をお伝えしてきましたが、今回は少し視点を変えて、私たちがプロジェクトを「あえてお断りするケース」についてお話ししたいと思います。
すべての案件を無条件にお受けしているわけではありません。それは決して「仕事を選んでいる」といった傲慢な理由からではなく、マーケティングを「価値循環の設計」と定義している以上、どうしても避けられない構造上の理由があるからです。
目次
「Yes」が引き起こす構造的な不幸
ビジネスにおいて、依頼に対して「何でもやります」と応えることは、一見すると非常に耳障りが良く、スムーズな進行に思えます。
しかし、プロジェクトにおいて最も恐ろしいのは、「期待値のミスマッチ」です。 例えば、クライアントが「とりあえず、言われた通りに広告だけ回してほしい(作業の分業)」と考えているのに対し、支援側が「事業の根幹から入り込んで構造を変えたい」と考えていたとします。
ここで「受注すること」を優先して無条件に「Yes」を出してしまうと、どうなるでしょうか。 目的(Design)が共有されないまま、個別の施策(Operation)だけが走り出します。
結果として成果が上がらず、「言われた通りにやったのに」「もっとうまくやってくれると思ったのに」と、お互いが不満を抱えることになります。これは、事業の大切な予算と時間をただ浪費するだけの、構造的な不幸です。
お断りするのは「価値循環」が成立しないから
私たちがプロジェクトをお受けするかどうか判断する際、その基準は「予算の大小」ではありません。 最も重視しているのは、「共に事業の構造を考え、1+1=3の価値循環を生み出せるか」という一点です。
そのため、以下のようなケースでは、理由を事実に基づいてご説明した上で、お断り(あるいは時期をずらすご提案)をすることがあります。
1. 目的(Design)の共有を飛ばして、作業だけを求められる場合
「戦略はいいから、とりあえずリスト通りにLPを作ってほしい」というご依頼です。私たちは「言われた作業を代行する手」ではなく、事業と顧客の思いを翻訳するプロセスを提供しています。上流の設計をご一緒できない場合、価値が循環する構造を作ることができず、結果的に事業を非連続に伸ばす(1+1=3)というお約束が果たせません。
2. そもそも、今はその施策をすべきフェーズではない場合
事象を解体していく中で、「今は集客やサイト改善に投資するよりも、まずは『商品・サービス自体の価値』を根本から見直す方が先決だ」というファクトが見えることがあります。
マーケティングは「価値を社会に循環させる技術」ですが、起点となる「価値の純度」が不足している状態で無理に流通させても、顧客の期待を裏切るだけで事業の成長には繋がりません。
その場合、目先の利益のためにプロジェクトをお受けするようなことはしません。「今はまだ集客で広げるタイミングではありません。まずは商品自体の構造を見つめ直し、この課題をクリアにしてから、もう一度お話ししましょう」とご提案します。
「思いを預かる」からこその判断責任
私たちの行動指針(KH CODE)には、「思いを預かる」という言葉があります。 クライアントの事業への熱い思いや、「こんな価値を社会に届けたい」という願望を自分ごととして引き受けること。
本気で事業を背負うからこそ、最大限の価値(1+1=3)を提供できないと分かっているプロジェクトに「やります」と応えることは、当事者意識の欠如だと考えています。 できないことはできないと伝え、耳の痛い事実でも真っ先に共有する(バッドニュース・ファースト)。それもまた、事業を正しい方向へ導くための「ディシジョン(意思決定)」であり、私たちのマーケティング技術の重要な一部なのです。
まとめ
外部のパートナーと協働する際、「何でもやります」という耳障りの良い言葉だけでなく、「それは今はやるべきではない」「目的がズレている」と、摩擦を恐れずに決断してくれる存在かどうかを見極めてみてください。 耳の痛い対話の先にこそ、事業を非連続に成長させる真の構造が待っています。
次回はいよいよ最終回です。 【第18回】KURO HOLDINGSが考えるマーケティングとは ― “技術”ではなく“思想”で語る理由 ― 私たちがなぜ、ここまで思考や構造にこだわり、マーケティングに情熱を注ぐのか。その根底にある社会への眼差しについてお話しします。