「〇〇さんが担当している広告だけは、いつも数字が良い」
「あの人が企画したLPは売れるけれど、他の人が作ると全然ダメだ」
マーケティングの現場において、ずば抜けた勘やセンスを持ち、高い成果を叩き出す「優秀な担当者」の存在は非常に心強いものです。 しかし、その一方で多くのマネージャーや経営者が、ある静かな恐怖を抱えています。
「もし、あの人が異動や退職で抜けてしまったら、うちの現場はどうなってしまうのだろうか」
特定の個人のスキルに依存し、その人がいないと成果が出ない。この「属人化」の壁にぶつかっている組織は少なくありません。
成功を「なんとなく」で終わらせるリスク
なぜ、マーケティング業務は属人化しやすいのでしょうか。 それは多くの場合、成果が出たときに「うまくいってよかった」で終わらせてしまっているからです。
例えば、あるキャンペーンが予想以上の売上を記録したとします。 このとき、「今回のバナーのデザインが良かったね」「タイミングがバッチリだったね」といった「感想」で振り返りを終えていないでしょうか。
優秀な担当者の頭の中には、「なぜそのデザインにしたのか」「なぜそのタイミングを狙ったのか」という高度な判断基準が存在しています。しかし、それを言葉にして共有しない限り、他のメンバーから見れば「あの人のセンスがすごかった」というブラックボックスのままで終わってしまいます。
成功体験が個人の頭の中に留まっている状態では、何度成功を繰り返しても、組織のノウハウ(資産)は一向に貯まりません。
個人の成功を「型」へと翻訳する
では、成果を出し続けるプロフェッショナルの組織は、この属人化の壁をどう乗り越えているのでしょうか。 私たちがプロジェクトをご支援する際、あるいは社内の組織運営において意識しているのが「成果の言語化」というプロセスです。
私たちは、成果が出たとき「なんとなく勝った」で片付けることを許しません。 「なぜ成果が出たのか」を構造的に解剖し、特定の個人の「経験」を、チーム全員が使える「型(アルゴリズム)」へと翻訳します。
その際、私たちは前回までの連載でも触れた「DSO(Design / Strategy / Operation)」という枠組みを使って、成功の因果関係を紐解きます。
| Design(設計):誰の、どんな不安や願望を解消しようとしたのか? Strategy(戦略):どのような価値の翻訳(メッセージや見せ方)をしたから、顧客の心が動いたのか? Operation(運用):どの媒体で、どんなタイミングで配信したことが効果的だったのか? |
「思考のプロセス」を透明にする
「今回は、顧客の『失敗したくない』という不安(Design)に対し、プロの視点での『正解の提示』(Strategy)を、比較検討が長引く休日の夜(Operation)にぶつけたから勝てたのだ」
このように成功の理由を構造として言語化できれば、それはもはや個人のセンスではありません。「他の商品や別の担当者でも使える、再現性のある設計図」になります。つまり、属人化から抜け出すための鍵は、結果だけを共有するのではなく、そこに至った「思考のプロセスを透明にする」ことにあるのです。
私たちがクライアントの事業に入り込む際も、ただ広告を運用して数字をお返しするだけではありません。「なぜこの施策が当たったのか」という勝ち筋の構造を必ず言語化し、御社の組織の「資産」として残る形に翻訳して共有します。 それこそが、事業を長期的に、かつ非連続に成長させるパートナーの役割だと考えているからです。
まとめ
「優秀なあの人」の存在は、組織にとって大きな武器です。 しかし、その武器を「あの人しか使えない魔法の剣」にしておくのではなく、設計図を書き起こし、全員が使える「共通の型」に変えていくこと。
もし自社のマーケティングが特定の誰かに依存していると感じたら、直近の「成功事例」を一つ取り上げ、チーム全員で「なぜうまくいったのか」を言語化する時間を作ってみてください。その積み重ねが、属人化を打ち破る最大の力になります。
次回は、この「言語化と構造化」の技術をさらに研ぎ澄まし、複雑に絡み合った課題を解きほぐすアプローチ。『「売上が上がらない」という巨大な岩をどう砕くか。課題の根っこを見つける「因数分解」の思考法』についてお話しします。