制作会社との打ち合わせや社内の企画会議で、「まずはペルソナを決めましょう」と言われた。なんとなく頷いたものの、ターゲットと何が違うのか、わざわざ作る必要があるのかは、実はよく分かっていない。ペルソナは、そんな場面で初めて出会うことの多いマーケティング用語です。
この記事では、言葉の意味だけでなく、ペルソナがあると施策の判断が実際にどう変わるのかまで、仮の例を使って確かめていきます。
目次
ペルソナとは?ビジネスでの意味を一言でいうと
ビジネスやマーケティングでいうペルソナとは、自社の商品・サービスを届けたい典型的な顧客を、実在する一人の人物のように具体的に描いた、架空の人物像のことです。
年齢や職業といった属性だけでなく、その人が日々どんなことに困っていて、どこで情報を集め、何を決め手に商品を選ぶのかまで書き出すのが特徴です。たとえば「30代の会社員」ではなく、「38歳、共働きで、来年小学校に入る子どもが1人。平日の夜、子どもが寝たあとにスマートフォンで情報を集める」といった細かさで描きます。
なお「ペルソナ」はマーケティング以外の分野でも使われる言葉で、文脈によって意味が少しずつ異なります。会話の中で意味がかみ合わないと感じたときのために、言葉の成り立ちも押さえておきましょう。
もともとは演劇の「仮面」を意味する言葉
ペルソナ(persona)はラテン語に由来する言葉で、もとは古代ローマの演劇で役者がかぶっていた仮面を指していました。そこから「劇の登場人物・役柄」、さらに「人」そのものを表す意味へと広がり、英語のperson(人)の語源にもなっています。
心理学でいう「ペルソナ」との違い
心理学では、スイスの精神科医・心理学者カール・グスタフ・ユングが、人が社会に適応するために外に向けて見せる顔(社会的な役割としての人格)を「ペルソナ」と呼びました。職場では上司としての顔、家では親としての顔というように、場面ごとに使い分けている「役割としての自分」をイメージすると分かりやすいでしょう。
マーケティングのペルソナとは指しているものが異なるため、自己分析や人間関係の話題で「ペルソナ」という言葉が出てきた場合は、こちらの意味で使われていると考えてください。
マーケティングで使われるようになった経緯
顧客像を表す意味でのペルソナを広めたのは、ソフトウェア開発者のアラン・クーパー氏です。クーパー氏は、使いやすいソフトウェアを設計するための手法として長年の実務の中でペルソナを使い続け、1999年の著書『The Inmates Are Running the Asylum』で紹介したことで、広く知られるようになりました。
ここで押さえておきたいのは、ペルソナが顧客のプロフィールを記録するための資料としてではなく、「誰のために作るのか」を関係者のあいだでそろえ、設計の判断を迷わせないための道具として生まれたという点です。この考え方がのちにマーケティングの分野にも広がり、Webサイトや広告、コンテンツの企画でも使われるようになりました。「判断のための道具」という性格は、ペルソナを作るときにも、使うときにも重要になります。
ペルソナとターゲットの違い
ターゲットは「どんな層に売るか」を決める集団の括り、ペルソナは「その層の中の、どんな一人に向けて伝えるか」を描いた人物像です。両者は対立するものではなく、ターゲットで市場の範囲を決め、その中からペルソナを描く、という順番で使います。
| 項目 | ターゲット | ペルソナ |
|---|---|---|
| 表すもの | 顧客の集団(層) | 典型的な一人の人物 |
| 具体性 | 年齢・性別・地域などの大まかな属性 | 属性に加え、悩み・情報収集の方法・選ぶときの決め手まで |
| 表現の例 | 30〜40代、子育て世帯、県内在住 | 38歳、共働き、子ども1人、夜にスマートフォンで情報を集める佐藤さん |
| 主に決めること | 売る市場、広告の配信対象、事業の方向性 | 伝える言葉、情報の見せ方、どこで接点を持つか |
出店にたとえると分かりやすいかもしれません。ターゲットは「どの地域に店を出すか」、ペルソナは「その地域を実際に歩いている、ある一人のお客さん」です。出店する場所はターゲットで決まりますが、看板に何を書くかは、そのお客さんを思い浮かべないと決められません。
ターゲットが決まっていても、ペルソナが必要になる理由
「30〜40代の子育て世帯」というターゲットを共有していても、そこから思い浮かべる人物は人によって大きく異なります。ある人は時間に追われる共働き夫婦を、別の人は子どもの教育に熱心な家庭を想像するかもしれません。この状態でキャッチコピーやデザインを話し合うと、それぞれが別の人物に向けた案を持ち寄ることになり、議論がかみ合わなくなります。
ペルソナは、こうした「頭の中の顧客像のずれ」を、一人の具体的な人物にそろえるために使います。顧客像がそろうと、「この人ならこの言葉に反応するか」という同じ物差しで、案を比べられるようになります。
先に決めるのはターゲット、その次にペルソナ
両者を決める順番は、ターゲットが先です。ペルソナから描き始めると、身近な知人や印象に残っている一人の顧客をもとにした人物像になりやすく、その人物が属する層が、事業として十分な大きさのある市場なのかを確かめないまま進んでしまうためです。
まずターゲットで「この層に売れば事業が成り立つ」という範囲を決め、その中で最も典型的な一人をペルソナとして描く。この順番を守ると、ペルソナに向けた施策が、ターゲット全体にも届きやすくなります。
ペルソナを作ると何が変わる?仮の例で比べてみる
意味は分かっても、「本当に作る必要があるのか」は実際に使ってみないと実感しにくいものです。ここでは仮の条件を置き、ターゲットだけで考えた場合と、ペルソナまで描いた場合とで、施策の判断がどう変わるかを比べてみます。
例:地域の工務店がWebサイトのトップページを見直す場合
以下は、説明のために設定した架空の例です。県内で注文住宅を手がける工務店が、Webサイトからの相談件数を増やすためにトップページを見直すとします。ターゲットは「30〜40代、子育て世帯、県内在住」です。過去の問い合わせ内容や見学会のアンケートをもとに、次のようなペルソナを描いたとします。
- 人物:佐藤さん、38歳。共働きで、来年小学校に入る子どもが1人いる
- 状況:子どもの入学までに家を建てたいが、何から始めればいいか分からない
- 悩み・不安:総額がいくらになるのか見えない。住宅展示場に行くと営業をかけられそうで、足が向かない
- 情報収集の方法:平日の夜、子どもが寝たあとにスマートフォンで施工事例やSNSを見る
- 選ぶときの決め手:予算の見通しが立つこと、気軽に相談できること
ターゲットだけの場合と、ペルソナがある場合の判断の違い
トップページの見直しで決める必要がある3つの点について、判断の違いを並べると次のようになります。
| 決めること | ターゲットだけで考えた場合 | ペルソナまで描いた場合 |
|---|---|---|
| トップページの見出し | 「家族の笑顔があふれる家づくり」など、誰にでも当てはまる表現 | 「土地代や諸費用まで含めた総額を、最初の相談でお見せします」 |
| 相談の入り口 | 「お問い合わせ」ボタンのみ | 「総額の試算を依頼する」「オンラインで15分だけ相談する」 |
| 力を入れて載せる情報 | 会社の理念やこだわり | 価格帯別の施工事例と、入学時期から逆算した家づくりの流れ |
ターゲットだけでも施策は作れますが、判断の根拠が「なんとなく良さそう」にとどまり、誰にでも当てはまる表現に落ち着きがちです。ペルソナがあると、「佐藤さんの不安は総額が見えないことだから、見出しで総額に触れよう」「展示場に行きづらいなら、オンラインで短く相談できる入り口を用意しよう」というように、一つひとつの判断に理由が付きます。
この例から分かるペルソナの効果は、次の3つに整理できます。
- 関係者の顧客像がそろう:社内や制作会社と「佐藤さんならどう感じるか」という同じ前提で話し合える
- 顧客の言葉で考えられる:自社が言いたいことではなく、顧客が知りたいことから見出しや情報の順番を決められる
- 迷ったときの判断基準になる:複数の案で迷ったとき、「どちらがこの人の不安を解消するか」で選べる
反対に、ペルソナを作っても、こうした判断のどこにも使われなければ効果は生まれません。ペルソナの価値は、資料が完成した時点ではなく、判断に使われた時点で初めて生まれます。
ペルソナの作り方【基本の5ステップ】
ペルソナは想像で書き始めるのではなく、「何を決めるために使うか」を先に決め、顧客の事実をもとに組み立てます。基本の流れは次の5ステップです。
1. 何を決めるためのペルソナかを決める
最初に、ペルソナを使って何を判断したいのかを決めます。Webサイトの見出しや導線を決めたいのか、広告の訴求を決めたいのか、新しい商品の企画に使いたいのかによって、書き込むべき項目が変わるためです。
たとえば、Webサイトの改善に使うなら「どんな言葉で検索するか」「サイトのどこで迷いそうか」が重要になり、商品企画に使うなら「今はどんな方法で困りごとをしのいでいるか」が重要になります。目的を決めずに作り始めると、項目を埋めること自体が目的になりやすいので注意が必要です。
2. 顧客の事実を集める
次に、ペルソナの材料となる顧客の情報を集めます。社内の手元にあることが多い材料は、次のとおりです。
- 問い合わせフォームやメールに書かれた相談内容
- 営業担当者やカスタマーサポートが顧客から聞いた話
- 購入者・来場者へのアンケートの回答、商品レビュー
- アクセス解析で分かる、よく見られているページや流入している検索キーワード
- 既存顧客へのインタビュー(数名でも、選んだ決め手や不安を直接聞ける)
数字のデータからは「どのページがよく見られているか」といった行動が分かり、顧客の声からは「なぜそう行動したのか」という理由が分かります。両方をそろえることで、人物像に根拠が生まれます。
私たちがお客様のペルソナづくりに関わる際も、担当者の想像だけで人物像のシートを埋めることはしません。問い合わせの文面や営業の記録には、顧客自身もうまく言葉にできていない不安や期待が表れていることが多く、そこを丁寧に読み解くことが、判断に使えるペルソナへの近道だと考えています。
3. 顧客に共通するパターンを見つける
集めた情報を並べ、多くの顧客に共通している悩み、検討を始めたきっかけ、比較するときに重視している点、情報を集める場所などを洗い出します。ここでは、一人だけの特殊な事情よりも、繰り返し出てくる傾向を優先します。
共通点が2つ以上の方向にはっきり分かれる場合(例:価格を最も重視する層と、デザインを最も重視する層)は、無理に一人にまとめず、それぞれを別のペルソナとして扱うことを検討します。
4. 一人の人物として書き出す
洗い出した共通点をもとに、名前や年齢を持った一人の人物として書き出します。よく使われる項目と、その項目で決まることは次のとおりです。
- 基本情報(名前・年齢・職業・家族構成など):関係者が同じ人物を思い浮かべるための手がかりになる
- 置かれている状況:なぜ今この商品・サービスを探しているのか、というきっかけが分かる
- 悩み・不安:見出しや説明で、何を最初に伝えるべきかが決まる
- 情報収集の方法:どの媒体・どの時間帯で接点を持つべきかが決まる
- 選ぶときの決め手:他社と比べられたときに、何を強調すべきかが決まる
項目の数に正解はありません。大切なのは、最初に決めた「何を決めるためのペルソナか」に対して、その項目が判断の役に立つかどうかです。
判断に使える項目と、飾りになりやすい項目
趣味や休日の過ごし方、年収といった項目は、ペルソナシートのテンプレートでよく見かけます。これらは施策の判断に関わる場合には役立ちますが、関わらない場合は人物像をそれらしく見せるだけの飾りになりがちです。
判断に使える項目:「平日の夜にスマートフォンで調べる」と分かっていれば、スマートフォンでの見やすさを優先する、広告を夜の時間帯に多く配信する、といった判断の根拠になります。
飾りになりやすい項目:工務店のトップページを見直す目的で「休日はカフェ巡り」と書いても、その情報によって変わる判断がなければ、書き込む必要はありません。
迷ったときは、「この項目を消したら、変わる判断はあるか」と考えてみてください。変わる判断がない項目は、削っても困りません。
5. 施策に使い、反応を見て更新する
完成したペルソナは、見出しの案出しや広告文の比較、サイトの導線の見直しなど、実際の判断の場面で使います。会議で「佐藤さんならどちらを選ぶか」と問いかけるように、人物の名前を判断の基準として口に出すと、ペルソナが資料のまま眠りにくくなります。
また、施策の反応(問い合わせの内容、よく見られるページなど)がペルソナの想定とずれていた場合は、ペルソナのほうを見直します。顧客の状況や市場は変化するため、新しい商品を出したときや、問い合わせの傾向が変わったと感じたときなど、節目ごとに見直す前提で運用しましょう。
ペルソナ作りでよくある失敗と、見直すときの確認ポイント
ペルソナがうまく機能しない原因の多くは、作り方の細かな技術よりも、「何のために作るのか」が抜け落ちていることにあります。よくある失敗と、その見直し方を確認しておきましょう。
自社にとって都合のいい顧客像になっている
「価格が高くても品質を理解して買ってくれる」「説明しなくても良さを分かってくれる」といった、自社にとっての理想の顧客を描いてしまう失敗です。理想像に向けて作った見出しや導線は、実際の顧客には届きません。集めた顧客の事実と照らし合わせたうえで、営業担当者など普段顧客と接している人に「この人物は本当にいそうか」を確認してもらうのが効果的です。
年齢や職業ばかりで、悩みや決め手が書かれていない
年齢・性別・職業といった属性は埋めやすい一方、それだけではターゲットとほとんど変わりません。同じ「38歳・会社員」でも、何に困っていて、何を決め手に選ぶのかは人によって違います。ペルソナをターゲットと分けているのは、悩み・情報収集の方法・選ぶときの決め手といった、行動や判断に関わる部分です。
作ったまま、施策の判断に使われていない
時間をかけて作ったペルソナが、共有フォルダに保存されたまま誰にも参照されない、というケースは少なくありません。多くの場合、「何を決めるためのペルソナか」が決まらないまま作られたことが原因です。使われていないと感じたら、まず「次に決める施策は何か」を一つ挙げ、その判断に必要な項目だけを残して作り直すところから始めてみてください。
細かく作り込むこと自体が目的になっている
「ペルソナはもう古い」「作っても意味がない」という声を耳にすることがあります。その背景には、何十もの項目を埋めた精緻なペルソナを作ったものの、施策には使われなかったという経験があることが多いようです。顧客の行動データを細かく分析できるようになった今、架空の人物像を作り込むより、実際のデータを見たほうが早い場面があるのも事実です。
ただし、データが示すのは「顧客が何をしたか」であり、「なぜそうしたのか」までは教えてくれません。その理由を想像し、関係者で共有するための道具として、ペルソナは今も役に立ちます。必要なのは、ペルソナを捨てることではなく、判断に必要な分だけ作ることです。
作り込みすぎてしまう背景には、「一度で正しい顧客像を完成させなければ」という思い込みがあるように感じます。私たちはペルソナを、今わかっている事実から立てた「顧客についての仮説」として扱うようにしています。仮説である以上、施策の反応を見て外れていた部分を直していけばよく、最初から完璧を目指す必要はありません。
制作会社や担当者からペルソナを提示されたときの確かめ方
Webサイト制作や広告運用を外部に依頼すると、提案資料の中でペルソナが示されることがあります。内容の良し悪しを判断しにくいと感じたら、次の3つを質問してみてください。
- このペルソナは、どんなデータや顧客の声をもとに作りましたか?
- このペルソナによって、サイトや広告のどの部分の判断が変わりましたか?
- 施策を始めたあと、どのタイミングでペルソナを見直しますか?
根拠となった情報と、判断への反映のされ方を具体的に説明できるペルソナであれば、施策の土台として信頼できます。反対に、説明が「一般的にこの年代は〜」といった印象論にとどまる場合は、自社の問い合わせ内容や営業の記録を共有し、一緒に見直すことを提案するとよいでしょう。
ペルソナに関するよくある質問
ペルソナは何人作ればいいですか?
まずは、最も重要な顧客を表すペルソナを1人作るところから始めるのが一般的です。人数が増えるほど施策ごとに「誰に向けるか」が分散し、判断の軸がぶれやすくなるためです。顧客の傾向がはっきり2つ以上に分かれた場合に限って2人目以降を追加し、それぞれのペルソナがどの施策の判断を担うのかを決めておきましょう。
BtoB(法人向け)の商材でもペルソナは必要ですか?
必要です。ただし法人向けの商材では、実際に使う現場の担当者と、導入を決める決裁者が別の人であることが多いため、両者を分けて考えます。購入を決める人を想定したものを「バイヤーペルソナ」、実際に使う人を想定したものを「ユーザーペルソナ」と呼んで区別することもあります。現場の担当者は「作業が楽になるか」、決裁者は「費用に見合う効果があるか」を重視するなど、知りたい情報が異なる点を押さえておきましょう。
顧客データがない新規事業でも、ペルソナは作れますか?
作れます。既存顧客のデータがない場合は、見込み客になりそうな数名へのヒアリング、競合商品のレビュー、Q&AサイトやSNSに投稿されている悩みなどから材料を集め、仮のペルソナを作ります。そのうえで、事業を始めて実際の問い合わせや購入者の情報が集まった段階で、早めに見直すことを前提にしておきましょう。
生成AIでペルソナを作ってもいいですか?
たたき台を作る道具としては便利です。商品の情報や想定する顧客層を伝えれば、それらしい人物像をすぐに書き出してくれます。ただし、生成AIが書き出す人物像は一般的な傾向をもとにしたもので、自社の顧客の実態を反映しているとは限りません。AIの案は出発点にとどめ、自社の問い合わせ内容や顧客の声と照らし合わせて修正することが大切です。
まとめ:ペルソナは、判断に使ってこそ意味がある
ペルソナとは、自社の商品・サービスを届けたい典型的な顧客を、実在する一人の人物のように描いた人物像です。ターゲットが「どんな層に売るか」を決めるのに対し、ペルソナは「その層のどんな一人に、何をどう伝えるか」を決めるために使います。
ペルソナの良し悪しは、項目の多さではなく、施策の判断にどれだけ使えるかで決まります。これから作る方も、手元にあるペルソナを見直す方も、まずは次に決めたい施策を一つ挙げ、その判断に必要な顧客の情報は何かを書き出すところから始めてみてください。