前回は、マーケティングにおいて「施策の数」ではなく、「思考の構造」が成果を決めるというお話をしました。 今回は、その構造を設計する上で絶対に外してはいけない、最も重要な起点についてお話しします。
それが「顧客視点」です。
「顧客視点が大事なんて、言われなくてもわかっている」 、そう思われるかもしれません。しかし、いざマーケティングの現場を紐解いてみると、多くの企業が気づかないうちに「売り手の論理」に陥り、自ら成果を逃してしまっているケースは少なくありません。
気づかぬうちに陥る「売り手の論理」の罠
例えば、自社の商品やサービスをアピールするとき、こんな風に考えていないでしょうか。
「うちのシステムはこんなに機能が豊富だ」
「この素材は他社にはない特別なものを使っている」
「だから、この素晴らしい魅力をLPや広告で全力で伝えよう」
一見、正しいマーケティング活動に思えます。しかし、これこそが内部都合であり「売り手の論理」です。
顧客は、あなたの商品の機能や素材そのものが欲しいわけではありません。それを通じて「自分の抱えている課題が解決できるか」「自分の生活や仕事がどう良くなるか」にしか興味がないのです。
どれだけ優れた機能を並べ立てても、顧客の目線で「専門用語ばかりで難しそう」「自分には使いこなせなさそう」と感じられた時点で、その価値は届かなくなってしまいます。
本当の「顧客視点」とは、インサイトの翻訳である
では、本当の顧客視点とは何でしょうか。 それは単に「顧客の言う通りにする(御用聞きになる)」ことではありません。私たちは、顧客視点を「売り手の論理ではなく、受け手のリアルを出発点に考える姿勢」と定義しています。
例えば、インテリアのECサイトの事例で考えてみましょう。 売り手の論理では、「このソファはデザインが良くて高品質です」と単品の魅力を語ります。しかし、顧客のリアルな声にならない不安は、「このソファ、自分の今の部屋の広さやテイストに本当に合うだろうか? 失敗したくないな」というところにあります。
インテリア選びは失敗した時の心理的・金銭的コストが高いため、「たくさんの商品から自由に選べること」は、かえって顧客にとって「選べない理由=離脱の原因」になってしまうのです。
ここでプロが取るべき顧客視点のアプローチは、「プロの空間設計者として、間取りやライフステージに合わせたセット提案などの『正解』を提示してあげること」です。
教育やコンサルティングなどの無形商材でも構造は同じです。 もし顧客の本音が「情報が多すぎて一人では消化しきれない。途中で挫折したくない」という不安にあるならば、提供すべき価値は「大量のコンテンツ」ではなく、「最後までやり切らせるための伴走体験」へと翻訳されるべきです。
現象ではなく「構造」として顧客を理解する
「ユーザー起点で物事を考えましょう」というのは、マーケティングにおける一般論です。 しかし、私たちがプロジェクトをご支援する際、これを単なる精神論やペルソナシートを埋める作業で終わらせることはありません。
私たちが「顧客理解」において最も重視しているのは、顧客の声を単なる言葉として受け取るのではなく、独自の分析軸を用いて「構造」として解体することです。具体的には、以下の3つのレイヤーで顧客の心理を掘り下げます。
【ペイン(痛みの3階層)】
表面的な「身体的・視覚的な悩み(物理的な違和感)」だけでなく、それが引き起こす「生活的・経済的な損失」、さらには誰にも言えないコンプレックスや恐怖といった「情緒的・実存的な深層心理」まで因数分解します。
【ジョブ(真の目的)】
顧客がその商品やサービスを通じて「本当は何を成し遂げたいのか(解決したい用事)」を明確に定義します。
【インサイト(本音と建前)】
アンケートなどでは決して口に出されない、顧客の「怠惰」や「隠れた欲求」を見つけ出します。
顧客自身もうまく言葉にできない違和感や「本当はこうなりたい」という願望を、この軸に沿って深く読み解く。そうすることで初めて、売上が上がらない理由を単なる「現象」ではなく「構造の不一致」として突き止めることができるのです。
そして、その見えない摩擦を取り除くために、ただ広告のキャッチコピーを変えるような表面的な対処はしません。 顧客の「ジョブ(真の目的)」に寄り添い、商品やサービスが本来持っている価値へと翻訳し直す。必要であれば、目的ファーストで事業構造そのものを再設計するご提案をします。
顧客の「願望の代弁者」となり、価値が正しく流れるように構造を引き直すこと。 これこそが、成果を出すために不可欠な本当の「顧客理解」のアプローチです。
まとめ
マーケティングのすべての起点は「顧客」にあります。 自社のLPや広告、SNSの発信を、一度「自分が一切の予備知識を持たない顧客だとしたらどう感じるか?」という目で問い直してみてください。そこに少しでも「売り手の都合」が混ざっていれば、それは見直すべきサインです。
次回は、この顧客視点や目的を見失った結果として起きてしまう悲劇、「手段の目的化(打ち手ファーストの危険性)」についてお話しします。